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あれ?現実って何だろう?リアルとは? 森美術館で開催中のレアンドロ・エルリッヒ展が投げかける問い


展覧会のスタートを飾る《反射する港》

六本木の森美術館でアルゼンチン出身で国際的に活躍するレアンドロ・エルリッヒの大規模な個展「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」が森美術館でスタートした。日本では彼の作品は金沢21世紀美術館のプールの作品がよく知られているが、今回はエルリッヒの過去最大規模の個展として、1995年に制作された《エレベーター》からこの展覧会のために制作された新作《教室》など、大型インスタレーション6点を含む46点が展示されている。その8割は日本初公開となっている。

レアンドロ・エルリッヒは1973年アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれで、現在はブエノスアイレスとウルグアイ、モンテビデオを拠点に活動を行っている。ベネチア・ビエンナーレやホイットニー・ビエンナーレに出展し、ニューヨークやローマで個展を開催するなど、国際的に幅広く活躍するアーティストだ。

エルリッヒについて南條史生森美術館館長は「アーティストの中には魔術的なものを潜在的に持つ人がいるが、彼はまさにそういうアーティスト。彼の作品は不可思議な体験をさせてくれる。日常の中に非日常の体験をもたらしてくれるのが、彼の作品の醍醐味だと思う」と語る。

展覧会の冒頭を飾る《反射する港》は、暗闇の中、水面に浮かぶ小さなボート。水面にはボートの姿が反射されている。ところが、実際にはこの水面の反射したイメージも、ボートと同じ素材でできていて水はない。当たり前のようにそこには水があると思う鑑賞者の意識は、ここでまず自身の視覚を疑うことを必要とされる。目の前の当たり前の現実が、じつはそうではなかったという驚きをもたらす。

《雲》

そういう現実の再認識という意味では、《雲》もその観点からとらえられる。フランス、ドイツ、イギリスのブリテン島、日本といった国の形が雲で作られている。雲は実際には実体をもたず刻々とその姿を変えていく。じつは現在、我々が認識している国のベースとなる大陸も、長い時をかけて刻々と変化を続けている。その大陸の上に形作られた国というのは、あくまで一時的なもので、確たるものは実は何もないのではないかという事実を美しい形状のこれらの雲が投げかける。

《美容院》

《美容院》はごくありふれた美容院の一角が再現されたもの。美容院のアイコンイメージである大きな鏡の向こうに写るのは、じつは別の人間。そうした些細な日常の中の一場面を使って、レアンドロ・エルリッヒは様々な認識へのゆさぶりをかけてくる。

《教室》

手前に並べられた机と椅子。そこに座って奥を見ると、そこには廃校の教室に座る自分の姿が鏡に投影されている。向こうの世界は幻のように、また遠い記憶の中のように浮かび上がる。 そこには実体をもたない不思議な世界が広がっている。

《建物》

壁にぶら下がる女性の姿。じつはそれは鏡うつったもの。実際には女性は地面に設置された建物の壁の上に寝そべっている。

会場にはこれまでのエルリッヒがてがけた大型プロジェクトのマケットやその写真なども展示されていて、これまでの彼の活動の全貌を知ることができる。

美しいけれど、ちょっと怖い、そして既成概念を軽やかに覆す。エルリッヒはアルゼンチン出身だが、アルゼンチンにはやはり魔術的で不思議な世界を描く小説家・ボルヘスがいる。アルゼンチン特有の文化の共通性も垣間見られる。レアンドロ・エルリッヒの魔術的な世界を、ぜひ体験してみてほしい。現代美術は小難しいと思われているが、そんなこともなく体験して、知らずに現代美術の面白さに気づける、そんな展覧会としてもレアンドロ・エルリッヒ展は現代美術への入口として最適なものといえるだろう。

なお同時開催プログラムとしては、

片岡真実森美術館チーフ・キュレーターとザラ・スタンホープ(元オークランド・アート・ギャラリー主任キュレーター)が企画の「MAMプロジェクト024:デイン・ミッチェル」 。1976年ニュージーランド生まれのアーティストで、日本の伝統的な香や最新の香料の技術までを多角的にリサーチし生まれた新作《アイリス、アイリス、アイリス》を展示。香と視覚の双方向で、新たな認識や感覚への刺激を与えてくれる。

森美術館のコレクションを紹介する「MAMコレクション006」は熊倉晴子森美術館アシスタント・キュレーターが企画した「物質と境界─ハンディウィルマン・サプトラ+千葉正也」。1975年インドネシア生まれの作家と1980年生まれの日本のアーティストとのコラボレーションとなっている。世界の多様な映像作品を紹介する「MAMスクリーン007」では徳山択一森美術館アソシエイト・キュレーターが企画した1980年生まれの映像作家、山本篤の9本の映像が上映されている。

会期:2017年11月18日[土]- 2018年4月1日[日]

休館日:会期中無休

開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)※火曜日のみ、17:00まで(最終入館 16:30)

会場:森美術館

料金:一般 1,800円学生(高校・大学生)1,200円子供(4歳~中学生)600円シニア(65歳以上)1,500円

主催:森美術館

後援:アルゼンチン共和国大使館

協賛:株式会社大林組、トヨタ自動車株式会社、株式会社コーエーテクモホールディングス、TRUNK(HOTEL)

企画 :椿 玲子(森美術館キュレーター)

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