【気になる1点】ペドロ・デ・メナ《アルカラの聖ディエゴ》:国立西洋美術館で「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(どこみる)が開幕

ルネサンス初期を代表する画家の一人、ジョットの《父なる神と天使》や、現存する作品がきわめて少ないジョルジョーネによる《男性の肖像》、そして静物画の名品として世界的に名高いフアン・サンチェス・コターンの《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》など、西洋美術史を網羅した作品が並ぶ「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(どこみる)が上野の国立西洋美術館で開催されています。18世紀のフランスではまだ珍しかった女性画家マリー=ガブリエル・カペによる麗しの自画像や、ごく最近まで歴史の闇に埋もれていたヤコーブス・フレル《座る女性のいる室内》などもあり、貴重な作品が並ぶ展覧会となっています。展覧会タイトルに「西洋絵画」とあるとおり、名だたる絵画作品が並んでいますが、その会場の一角にひっそりと、ペドロ・デ・メナ《アルカラの聖ディエゴ》がありました。高さ61.5cmのこぶりな彫刻ですが、静かに強い存在感を放っています。そのリアルな造形は、17世紀に制作されたものではありますが、みじんも古さは感じられません。
ペドロ・デ・メナはスペインの17世紀バロックを代表する彫刻家で、目や涙にガラスを用いたり、超写実的な表現とディテールへのこだわり、ドラマティックな感情表現が魅力です。グラナダ生まれですが、マラガ大聖堂の装飾レリーフ制作を機にマラガへと移住し、以後はおもにマラガで活動を行いました。マドリードへも赴き、スペインの宮廷などから注文を受けるようになります。代表作にはトレド大聖堂からの依頼で制作した《マグダラのマリア》(バリャドリード、国立彫刻美術館)があります。またフランドル絵画からヒントをえたキリストの半身彫刻《荊冠のキリスト》や《悲しみの聖母》は、工房で複数のレプリカが制作されるほど人気を博しました。
《アルカラの聖ディエゴ》のモチーフとなった聖ディエゴは15世紀を生きたスペイン出身のカトリック教会の聖人で、カナリア諸島で布教活動を行いました。特に貧しいものや病人への献身的な奉仕で知られ、慈善活動を象徴する存在として、現代でもその精神は広く受け継がれています。修道院で働いていた時、貧しい人々にパンを分け与えることを禁じられていたにもかかわらず、聖ディエゴは密かにパンを持ちだし貧者に与えていました。ある日、それを咎められ、隠し持っているものを見せるように命じられると、その瞬間、パンはバラの花に変わったという逸話があります。
その逸話を知ると、この両手でたぐり寄せている衣の間にじつは隠し持たれたパンがあり、踏み出した左足と踵を上げた右足は貧しい人々のもとへと急ぐ状況を連想させます。またほんの少し開いた口、そして悲しみともなんとも言えない曖昧な表情は、咎められた瞬間をとらえられたものかもしれません。骨や血管を感じさせるほど克明に彫られた手、爪の形をふくめて指の一本一本まで丁寧に制作されている足など、徹底してリアリティを追求することで生じる強い精神性を感じさせる木彫像です。
みなさんも、「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派までサンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(どこみる)でお気に入りの1点を見つけませんか?
アメリカのサンディエゴ美術館と日本の国立西洋美術館の所蔵品のなかからオールドマスター絵画(15〜18世紀絵画)を中心に、印象派までのえりすぐりの約90点を展示。600年にわたる西洋美術の歴史をたどりながら、西洋絵画をどのように見るとより楽しめるのかを提案。サンディエゴ美術館から出品される作品はすべて日本初公開。現存する作品が非常に少ないジョルジョーネの《男性の肖像》やルネサンス初期を代表する画家の一人ジョットの《父なる神と天使》、静物画の名品として世界的に知られるフアン・サンチェス・コターンの《マルメロ、キャベツ、メロンのキュウリのある静物》など名品が並ぶ。
会 期:2025年3月11日(火)~6月8日(日)
会 場:国立西洋美術館[東京・上野公園]
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日 :月曜日、5月7日(水)(ただし、3月24日(月)、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)は開館)
チケット:〔一般〕2,300円(税込)、〔大学生〕1,400円(税込)、〔高校生〕1,000円(税込)
主 催:国立西洋美術館、サンディエゴ美術館、日本経済新聞社、TBS、TBSグロウディア、テレビ東京
協 賛:DNP大日本印刷
後 援:アメリカ大使館
協 力:西洋美術振興財団
特別協力:Manifesto Expo
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