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回顧展としては85年ぶり、南画の大成者の1人・池大雅の約150件を集めた「特別展 池大雅」が4月に京都国立博物館で開催決定!


川端康成旧蔵品として知られる池大雅・与謝蕪村による国宝《十便十宜図》(川端康成記念会蔵)

円山応挙や伊藤若冲など個性はぞろいの江戸時代中期の京都において、与謝蕪村とともに「南画の大成者」と並び称される絵師・池大雅。川端康成がその作品を愛蔵したことでも知られる池大雅の作品は、やわらかな色彩と広がりのある心地よい空間構成が魅力。その池大雅の大規模な回顧展「特別展 池大雅 天衣無縫の旅の画家」が、4月7日〜5月20日まで京都国立博物館で開催されることになった。国内で昭和8年に開催された大雅の大規模な回顧展「池大雅遺墨展覧会」から85年ぶりのこと。作品点数もその時を上回る約150件が展示され、過去最大規模の大雅展となる。

《瀟湘勝概図屏風》(部分)

京都国立博物館の佐々木丞平館長は、「17世紀後半から18世紀にかけての京都画壇には琳派があり、若冲のような異端の画家があり、応挙に代表される円山四条派があり、大雅のような文人画があり、といったように画壇は百花繚乱を呈していた。当館では最近、若冲、応挙の展覧会を行ってきた。そして今回は85年ぶりとなる大雅展。昭和8年に当館がまだ恩賜京都博物館と称されていた時代に開催されて以来のこと。かつての大雅展はほとんどの方がご存じない。新しく大規模な応挙の展覧会と考えていただいてよい」。

また展覧会を担当する京都国立博物館の福士雄也学芸部研究員は「文人画とは何か、南画とは何かを出発点とするのではなく、大雅の描いた作品そのものの魅力を感じてほしい。タッチをいかした軟らかい表現が魅力。明末清初の中国絵画がもとになっているが、それをもとに独自に発展させて生まれた日本の南画の魅力がある。大雅の場合は明るさが最大の魅力ではと考えている。大雅は無欲な性格とつたえられているが、作品にもそれを示すような豊かな世界が広がっている」。

以下より、福士研究員の言葉とともに出品作品を見ていこう。

杲堂元昶筆《与池野氏又次郎童子偈》(京都府蔵)

大雅は京都銀座の下級役人の父のもとに生まれるが、4歳の時に父を亡くした。7歳で書を学びはじめ、万福寺の住職から神童と称された。この書には、そのことが実際に記されている。

15歳の時に扇屋をひらいて絵師としてスタートした。大雅が画風を確立するまでは長らく試行錯誤した時代がある。おそらく、大雅は中国の絵画を学んだのだろう。

《風雨起龍図》(個人蔵)

これは24歳の時の作品。初期の頃の作品で、まだ硬さの残る描写。大雅はおもに中国の絵画を手本に勉強している。密度の高い画面は若い時期ならではのもの。

《渭城柳色図》 (敦井美術館蔵)

画像ではなかなか伝わりにくいが、色彩の美しい作品。22歳の大雅が描いたもの。制作時期の明らかな作品としては、もっとも早期のもの。越後の画家・五十嵐浚明が郷里に戻る際に送別の品として送ったもの。線が硬いので、版本の線描に由来しているのではないかと考えられている。

《柳渓渡渉図》(千葉市美術館蔵)

《寒山拾得図》(京都国立博物館 展示期間:前期)

若い頃の試行錯誤の特色としては指墨画がある。筆ではなく指で描く絵画で、中国で発祥し日本に伝わった。初期南画の絵師たちが手がけた。大雅も描いている。筆を使わない指墨画には独特のリズムがある。指墨画というと、簡略でぎこちない表現のものになりがちだが、大雅の場合はかなり本格的。指を使うがゆえの、墨の面的な広がり、濃淡のある太い線の表現を積極的に取り入れていった。

《三岳紀行図屏風》(部分、京都国立博物館)

今回の展覧会の柱となるテーマは「旅」。大雅は二十代の後半からかなり旅をしている。富士山には少なくとも三度、登っている。富士をテーマにした作品も数多い。38歳の時には友人と3人で旅に出かけ、詳細に記録を残している。それが《三岳紀行図屏風》で、大雅による風景のスケッチ、書家の出納記録などが書かれている。浅間に登ったスケッチも見ることができる。

《浅間山真景図》(個人蔵)

このスケッチをもとに、大雅は《浅間山真景図》を描いた。江戸時代の絵画のなかでももっとも優れた風景表現のひとつ。大雅の旅は、絵画制作に直結する。そういう意味で、展覧会のなかでは旅の要素を重視している。

《瀟湘勝概図屏風》(重要文化財、個人蔵)

《瀟湘勝概図屏風》は瀟湘八景図という中国由来のモチーフを描いたもの。広がりのある風景表現は大雅が旅をしたことによる実感から生まれるものと考えられている。大雅はアトリエが小さかったので、大作を描く時には屋外で、太陽の光のもとで描いていたと言われる。

《楼閣山水図屏風》(国宝、東京国立博物館蔵、展示期間:5月2日〜20日)

《楼閣山水図屏風》は赤や青をところどころ鮮やかな色彩を入れて、金地の魅力をより引き出している。右隻は右下から左上に広がる雄大な空間の広がりが気持ちのよい作品。中国絵画をもとにしたものだが、大雅はそこにアレンジを加え独自の世界へと展開している。

《蘭亭曲水・龍山勝会図屏風》(静岡県立美術館蔵)

中国古代に行われた文人たちの雅会を主題とした作品。柔軟で軟らかい。潤いのある墨と美しい淡彩が調和し、広がりのある空間構成があわさって、大雅作品の魅力を存分にあらわしている。

《洞庭赤壁図巻》(部分、重要文化財、個人蔵)

《洞庭赤壁図巻》は中国の版本を参考にしたものだが、その一方で部分的には大雅自身の自然観察の成果がいかされている。水の表現は、何度も琵琶湖に通って水を観察し、それを絵にした。自身の自然体験を作品制作にいかしている。中国のスタイルを模倣するだけでなく、独自の世界へ発展させていった様をこうした作品から見ることができる。

約150件もの大雅作品が集結する大回顧展。自然とともに暮らし、豊かに生きる、現代の日本人にとっては贅沢とも言える大雅の描いた世界。大雅の初期作品からその様を辿りながら、大雅が描き続けて理想郷とも言える世界を春の京都で味わいたい。

会期:2018年4月7日[土]- 2018年5月20日[日]

観覧料:一般1500円(1300円)、大学生1200円(1000円)、高校生900円(700円)

※()内は前売り・20名以上の団体料金

主催:京都国立博物館、読売新聞社

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