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世界最古の美術雑誌「國華」創刊130周年を記念した展覧会「名作誕生」が4月に東京国立博物館で開催決定


明治維新とともに日本美術の世界にもこれまでの日本画とは異なる西洋画、いわゆる油絵が盛んにもてはやされた明治初期。そのなかで明治中期になると、あらためて日本古来の美術・文化を見直す気運が生まれた。東京美術学校の学長をつとめ、日本美術院の設立に尽力し、ボストン美術館の東洋部長として日本美術の保護に励んだ岡倉天心が、その中心ともいえる役割を果たした。その天心が明治22年10月に高橋健三らとともに創刊したのが美術雑誌「國華」。現在も定期的に刊行されている美術雑誌としては世界のなかでももっとも長い歴史を誇る。来年はその日本が世界に誇る美術雑誌「國華」130周年にあたり、また現在ではその刊行をバックアップしている朝日新聞140周年が重なり、これを記念して4月に東京国立博物館で「名作誕生 つながる日本美術」と題した展覧会が開催されることになった。ちょうど10年前、120周年を記念した展覧会は「対決」をテーマとしていたが、今回は日本美術史上における「名作」を取り上げ、その名作がどのように誕生したのか、それぞれの影響関係や共通する社会背景に着目し、広い意味で奈良時代から明治にいたる日本美術史の流れを追う展開ともいえる内容となっている。鑑真ゆかりの木彫や仏教美術、昨今人気の高い雪舟、宗達、若冲らの巨匠の代表作、そして古典文学から生まれた工芸品、岸田劉生の近代の洋画など、国宝・重要文化財を含む約120件が一堂に会する貴重な機会となっている。

展示は4章に分かれ、12のテーマが設けられている。以下、出品予定の作品を見ていく。

第一章は「祈りをつなぐ」

天平勝宝5年(753)、唐から高僧鑑真とともに渡来した仏師たちが制作した一木造りの仏像は、豊かな重量感のある表現が魅力。こうした木彫像は、平安時代前期に数多く制作され、後の仏像彫刻に大きな影響を与えた。《伝衆宝王菩薩立像》(重要文化財、奈良時代、唐招提寺)や《薬師如来立像》(国宝、奈良時代、元興寺)など。

また現在は改修工事のため休館中の大倉集古館が所蔵する国宝の《普賢菩薩騎象像》(平安時代)と同じく国宝で東京国立博物館が所蔵する「普賢菩薩像」(平安時代、展示期間:前期)は、法華経に基づいて表された白象に乗った普賢菩薩の合掌する様がモチーフ。木彫像と平面による表現の違いを実見できる。

現存する最大にして最古の祖師絵伝である「聖徳太子絵伝」(国宝、秦致貞筆、平安時代、東京国立博物館蔵)は、日本仏教の祖として尊崇される聖徳太子の生涯を描いたもの。もともとは法隆寺東院の絵殿を飾っていたもので、同展では前期と後期で面を変えての展示となる。

第二章は「巨匠のつながり」

ここでは昨今人気の雪舟・宗達・若冲の三人に絞った展示が行われる。

室町時代に本場・中国に渡って水墨画を現地で学んだ画僧・雪舟(1420〜1506?)。南宋の夏珪や玉澗といった過去の画家達の名品を習うのみならず、同時代の明の画家たちの画風も取り込み、オリジナルの水墨画を作り上げた。展示では雪舟の《四季花鳥図屏風》(重要文化財、室町時代、京都国立博物館、展示期間:前期)と呂紀の《四季花鳥図》(重要文化財、明時代、東京国立博物館、展示期間:前期)など、中国絵画と雪舟の作品をならべ、そのつながりと新たな展開を提示する。

左が呂紀の《四季花鳥図》の一面で右が雪舟の 《四季花鳥図屏風》の右隻の一部。比較すると、画面の奥へ奥へと重層的に重なっている様が、従来の日本画としては珍しい表現となっている。

琳派の祖と言われる安土桃山時代から江戸時代初期に活躍した俵屋宗達(生没年不詳)の作品はダイナミックな構図とデザイン性に、今みても新鮮な感覚を覚える。同展では《扇面貼交屏風》(宗達派、江戸時代、東京国立博物館)扇絵と絵巻の名作を通して、『伊勢物語』や『西行物語』といった古典文学から宗達が何を学び、吸収していったのか、創作の源へ着目する。

奇想の画家の代表格として近年爆発的なブームを巻き起こしたとも言える若冲(1716〜1800)。実は同じモチーフを生涯描き続けて、そこに改良を加え、新たな魅力を創り出していった表現上の特徴がある。金碧障壁画として鮮やかな金地に躍動感あふれるリズムと空間構成をもつ《仙人掌群鶏図襖》(重要文化財、江戸時代、西福寺)や《雪梅雄鶏図》(江戸時代、両足院)などの鶏や鶴をモチーフに描かれた作品を取り上げ、元宋絵画の模倣と自己模倣という切り口から展示。

第三章は「古典文学につながる」

日本を代表する古典文学の『伊勢物語』や『源氏物語』が、よりイメージ豊かに彩られた工芸品や絵画作品。『伊勢物語』からは燕子花と橋をモチーフとした光琳の《八橋蒔絵螺鈿硯箱》(江戸時代、東京国立博物館、展示期間:前期)や『伊勢物語』の世界を一望に見わたせる《伊勢物語図屏風》(江戸時代、斎宮歴史博物館)を展示。

『源氏物語』からは夕顔と御所車を表した《夕顔蒔絵大鼓胴》(江戸時代、東京国立博物館)や梅にとまる鶯を表した《初音蒔絵火取母》(重要文化財、室町時代、東慶寺) など。

最終章となる第四章は「つながるモチーフ/イメージ」

いわずと知れた大名品、長谷川等伯の国宝《松林図描図》(安土桃山時代、東京国立博物館、展示期間:前期)や、桜が絢爛に描かれた《吉野山》など、名所や風景がいかに描き継がれてきたのかを紹介。

花鳥のつながりとしては、能阿弥の《蓮図》(重要文化財、室町時代、正木美術館)や於子明の《蓮池水禽図》(重要文化財、南宋時代、知恩院)など。精緻に描かれた南宋の彩色表現と、墨一色で豊かな色彩を感じさせる水墨画の表現の違いも面白い。

人物表現としての繋がりでは《風俗図屏風(彦根屏風)》(国宝、江戸時代、彦根城博物館)や《湯女図》(重要文化財、江戸時代、MOA美術館)、《見返り美人図》(菱川師宣、江戸時代、東京国立博物館)などをもとに、風俗画や浮世絵の誕生について、古典文学からの図柄の転用などをもとに考えていく。

そして最後は大正から昭和にかけて活躍した岸田劉生(1891〜1929)の作品が登場。たんなる写実を超えて生々しさを感じさせる独自の表現を獲得した劉生は東洋の絵画にも学びその精神を吸収していった。ここでは劉生の代表作《道路と土手と塀(切通之写生)》(重要文化財、大正4年、東京国立博物館)と北斎の《くだんうしがふち》(江戸時代、東京国立博物館、展示期間:前期)、劉生の《野童女》と顔輝の寒山拾得の図などの比較を通して、劉生の東洋絵画につながる精神を紹介する。

出品作品約120件を通して、日本、そして東洋のトップクラスの美の世界に触れることができる期待の展覧会となっている。

会期:2018年4月13日[金]- 2018年5月27日[日]

*前期展示:4月13日〜5月6日、後期展示:5月8日〜5月27日

休館日:月曜日 ※ただし4月30日(月・休)は開館

開館時間:午前9時30分~午後5時

主催:東京国立博物館、國華社、朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日

協賛:竹中工務店、凸版印刷、三菱商事

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